2005.3.14
パース・レポート
スワン川からみたパース市街。 Curtin Business Schoolの研究室(9階にあります)からの風景:
地平線が続き、パースが”世界一孤立した都市”といわれる理由が良く分かる。
第2回:パースのジャパニーズ・グリーン・ティ(緑茶)
お茶どころ"静岡"からやってきた私にとっては、パースでの緑茶の需要動向が気になります。また、そろそろ
静岡のおいしい緑茶が恋しくなってきました。そこで、パース・レポートの第2弾は、パースのジャパニーズ・グリーン・ティ(煎茶)でいきたいと思います。
こちらで売られているジャパニーズ・グリーン・ティのパッケージの例。
1.緑茶の需要動向
はじめに、パースでのジャパニーズ・グリーン・ティ(以下、緑茶と呼びます)の需要動向はどうなのでしょうか。緑茶を扱うお店何軒かに行って話を聞いてきました。
回答をピックアップすると、「緑茶はブームになっている」、「緑茶の需要は急伸している」、「緑茶はとてもよく売れている」、「緑茶の売れ行きは紅茶の伸びをはるかに上回る」などです。数量的にみれば紅茶よりもはるかに少ないにしても、どこのお店でも共通しているのは、
「緑茶の需要は伸びている」という点です。
では、なぜ緑茶の需要が伸びているのでしょうか。
(1)第一の要因:ヘルス・ベネフィットの浸透
第一は、
緑茶の健康効果です。パースでは、ここ1,2年は1月に一度以上のペースで、緑茶の効能が現地の新聞や雑誌などに取り上げられています。まさにパブリシティ効果です。カーティン工科大学でも、緑茶の効能について研究を発表し、新聞に取り上げられました。
茶専門店"Tea For Me"の店主バリー(Barry Dawson)さんは「新聞の効果は、とくに大きい。広告と比べ格段に効果が高い」と話しています。今回の在外研究で指導をいただいているMilton-Smith教授の奥さんCarolynさんも、「緑茶には老化防止など様々なヘルスベネフィットがあるので、毎日飲んでいます」と話していました。
"Tea for Me"の経営者Barryさん
パースから電車で3駅目に"スビアコ(Subiaco)"という街があります。魅力的なマーケットや、個性的な小規模小売店が集積する私好みの街です。ここの商店街に、オーストラリア人が経営する日本をコンセプトにした専門店"JAPON"という単独店があります。この店の緑茶売場のPOPに、
緑茶の効能(Green tea health benefit)として以下の情報が書いてありました。
・緑茶はガンの防止に役立ちます
・緑茶は血中コレステロールの増加を抑制します
・緑茶は高血圧をコントロールします
・緑茶は血糖値を下げます
・緑茶は老化を抑えます
・緑茶は体をリフレッシュします
・緑茶は食物毒素を除去します
スビアコにあるJAPON JAPONの緑茶売場(湯飲みも置いてある) 日本の煎茶がA$13程度が中心。 A$30の煎茶も1アイテムある
パースのノースブリッジ地区にある1929年創業の食料品店”Kakulas Brothers”。Kakulasには、スーパーマーケットでは買えないようなこだわりの食材・食品が豊富に品揃えされています。この店では、紅茶とは別の場所、アジアの食品コーナーに日本の緑茶(煎茶)が陳列されています。
この店でも日本の緑茶の売上げが伸びているそうです。その理由を店員Sylviaさんに尋ねたところ、「
売上げが伸びている第一の理由は、健康効果。ダイエットにもよい」との答えが返ってきました。
スーパーには売っていないようなこだわりの食材を豊富に扱うKakulas コーヒー、ハーブ、シリアルなどの量り売りもしている
煎茶は、アジア食品コーナーにある。価格は100gでA$6.75。 MARUFUJIの煎茶
スーパーで売られている緑茶には、パッケージに健康効果が表示されていました。
WoolWorths で購入したSENCHAのティーバッグには、"
高い抗酸化作用(Rich Antioxidants)"とパッケージおよびティーバッグの包み紙印刷されています。この緑茶は、25パック入り50gでA$3.3=270円程度。産地表示はありませんが、パッケージから日本産ではないと思います。
パース郊外のBeckenhamに住む消費者のAnna Wheelerさんも、「日本の緑茶は抗酸化作用がある。」と話していました。緑茶の抗酸化作用は、パースの消費者にかなり浸透しているようです。
(2)第二の要因:マイルドさ
第二は、緑茶のマイルドな味、マイルドな刺激が、オーストラリアの現代の生活にマッチしてきたという点です。コーヒーと違う、
緑茶の"マイルドさ"が人気のようです。こちらで売られている緑茶のパッケージを見ると、A mild
tea、A mildly sweetといった言葉が目立ちます。
"JAPON"店長のポール(Paul Avon-Smith)さんは、「
オーストラリア人は今まではコーヒー文化であったが、お茶の文化にシフトしつつある。
とくに緑茶の伸びが著しい」と言っています。
「コーヒー文化から、お茶の文化にシフトしつつある」 ポールさん しゃれた茶器の品揃えも充実
透明なガラスの急須もおしゃれ
2.パースで緑茶を購入する
パース市内で日本風緑茶(Japanese style green tea)、すなわち煎茶を買うには、主に以下の方法があります。ここで、日本風と書いたのは、日本茶といっても中国製のものが多いからです。
・スーパーマーケットで買う。
・専門店(お茶の専門店、コーヒーとお茶の専門店)で買う。
・アジア食料品店で買う。
・デパートで買う。
パースで売っていた煎茶の一部(専門店で買ったものが2つ、スーパーで買ったものが1つ) 煎茶(100gがA$5.5=500円弱)
(1)スーパーマーケットで買う
現地の消費者の大部分は、スーパーマーケットでお茶を購入しています。 ColesやWoolWorthsなどの大規模スーパーに行くと、お茶の品揃えはゆうに100アイテムはあります。ただし、大部分は紅茶です。日本茶(煎茶)は棚の上のほうに1,2アイテムしか置いてありません。また、ルーズリーフ茶はなく、ティーバッグのみです。
値段は50gで300円程度です。茶専門店主のバリーさんは、スーパーのお茶は「rubbish」といっていましたが、実際に飲んでみると確かにその通りといった感じがします。
スーパーマーケットWoolWorths
(2)専門店で買う
パースには
茶の専門店が、数店しかありません。たとえば、専門店を中心に240以上の店が入居する超大規模ショッピングセンター”ウェストフィールド・カルーセル(Westfield
Carousel:パース近郊のCanningtonに立地)”をみても、そこには茶専門店は1店もありません。
つまり、ほとんどの人は、大規模スーパーマーケットなどの
専門店以外でお茶を買っているということです。
コーヒーとお茶の両方を扱う専門店はいくつかありますが、こういった店はコーヒーが中心でお茶の品揃えは少量です。とくに緑茶(煎茶)の品揃えは少なく1アイテム程度しかありません。
お茶の需要は伸びているのに専門店がまだ少ない。つまり、パースの茶専門店業態は、現在のところ競合も少なく、
有望なニッチ・マーケットであるといえると思います。
コーヒーとお茶の両方を扱う専門店(フリーマントルのマーケット内):緑茶(煎茶)の品揃えは1アイテムのみ
@パースの本格的茶専門店
パース市内で(おそらく)
唯一の本格的な茶専門店は、Carillon City にある"
Tea for Me"です。Barry Dawsonさんが経営する従業者3人(夫婦と従業員1名)の専門店です。この店は2年半前にオープンしました。
店内はガラス張りで明るく、店頭には茶器が飾ってあります。店内にはしゃれた椅子があり、もちろん試飲もできます。
茶専門店"Tea for Me"(パース店) 店頭の茶器
パース店は支店で、本店はスビアコという街(前出)にあります。本店は奥さん(Dingさん:中国人)が店を切り盛りしています。両店をあわせた年商は、A$500,000(4千万円程度)で、毎年増加を続けています。とくに、ここ1,2年の売上げの伸びが著しいようです。第3号店をパース中心商業地の顔とも言える
ロンドンコート(パースレポート第1回を参照)に出す予定だそうです。現在、ロンドンコートには空き店舗はありませんが、バリーさんは入居待ちリストの1番に名を連ねています。
本店もしゃれた感じで、インテリアにはこだわりがあります。この店の内装は、1906年に開業したデンマーク(コペンハーゲン)の伝統的な煙草店をモデルにしています。私が訪問した翌日には、"新聞社(The
West Australian:パースで最も読まれている新聞)が店の写真を撮りに来る"とのことでした。
"Tea for Me"(スビアコの本店)
a.仕 入
"Tea for Me"の商品の大部分はセイロン(スリランカ)の茶生産者から直接仕入れています。店主夫婦は年に数回セイロンに商品の買い付けのため訪問しています。少量ですが日本からの輸入もあります。当店の輸入国の内訳は以下の通りです。
・セイロン 95%
・中 国 3%
・台 湾 1%
・日 本 1%
当店が仕入先を検討する場合に考慮する点は、第一が"品質"、第二が"信頼性"、第三が"コスト"だそうです。
豊富な品揃え
b.当店の強み
「スーパーが競争相手」とのことですが、競争の次元が異なっており、棲み分けがされています。当店のターゲットを聞いたところ"
品質を求める消費者"との答えが返ってきました。店主のバリーさんがあげる、この店の強みは以下の3つです。
・品 質(Quality)
・店頭での知識、情報の伝達(Knowledgeable Service)
・フレンドリーサービス(Friendly Service)
品質に関しては、バリーさんは絶対の自信を持っています。年に数回はセイロンに行き、自分で確かめてから、商品を仕入れています。ただし、日本茶だけは、まだ良い仕入先が見つかっていないとのことで、日本との取引に関心を示していました。
当店で、注目すべきは接客時間の長さです。店頭では奥さんが、じっくり商品の説明をし、顧客は説明を聞いてから、商品を購入しています。訪問時も、15分ほど説明を聞いていた顧客がいました。お客の中心は中高年の女性客でした。
また、店内には、緑茶の専門書や緑茶に関する新聞切り抜きがたくさんあります。とにかく、バリーさん夫婦はよく勉強し、茶に関する専門知識を蓄積しているようです。
顧客との対面による情報提供(奥さんのDingさん) 専門知識を常に吸収。知識を売りにしている。
c.価格帯
価格帯は、スーパーよりも高いのですが、極端に高いというわけではなく、品質に見合う価格です。スーパーで100gがA$5のところ、当店はA$8.5といった感じです。ただし、日本から輸入をした緑茶は、100gA$10.5(840円程度)と少し高い値段で売られています。それでも、売れているそうです。
(3)アジア食料品店で買う
アジア食料品店では日本から輸入をした緑茶が買えます。ただし、このルートで緑茶を買うオーストラリア人は少ないと思います。
バラック・ストリート(Barrack Street)にあるLOI'Sというアジア食品店では、ルーズリーフもティーバッグも買えますし、煎茶もほうじ茶も購入ができます。山本山のお茶も売っています。
一番目立つのは京都の「宇治の露製茶」の商品です。ルーズリーフの煎茶が100gA$5.5で売っていました。番茶はA$3程度でした。
アジア食料品店 LOI'S
(4)デパートで買う
パースのデパートのお茶売場はそれほど充実しているとはいえません。老舗百貨店のデビット・ジョーンズ(David Jones)では煎茶とほうじ茶のティーバッグがそれぞれ1アイテムだけ置いてあります。「宇治の露製茶」の商品で50g(25パック)がA$6.75(540円程度)です。最大のデパートもマイヤー(Myer)には、食品売り場がありません(以前はあったそうです)。
以上、簡単にパースの緑茶事情を書きましたが、今後、パースにおいても、緑茶の需要は徐々に増えていくことは間違いないようです。パースの緑茶ビジネスの今後が楽しみです。
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