論文要旨

 

 今日、商品そのものの性能や性質ではなく、商品の売れ行きを消費者にアピールしている宣伝広告がある。通販化粧品会社DHCの『人気ランキング第1位』や、小売店の店頭で見られる『今売れています』などがそれである。

 社会心理学の研究で、「人は状況が不明確で曖昧な場合、自分と似ている人の行動を真似る傾向にある」(チャルディーニ、1991:社会的証明の原理)ことがわかっている。前述の商品の売れ行きを表した宣伝広告は、これを消費者心理に適用したものである。

 消費者の価値観が多様化している今日、社会的証明の原理はどのようなタイプの消費者に有効であるのだろうか。本研究では、社会心理学の分野で研究されてきた『人の心と行動の関係』を、『消費者の心理と購買行動の関係』である消費者心理学の分野に置き換えて実験を行なった。これは、社会心理学で確立された理論やモデルが、対象と行動をより具体化した消費者心理学の分野でも通用するのか、を確認するためである。

研究方法は、社会心理学の先行研究をもとに仮説を構築し、質問紙による仮説の検証実験を行なうこととした。具体的には、商品についての関与と独自性欲求という2つの尺度をもとに被験者を4つのタイプに分け、社会的証明の提示前後で商品に対する態度の変化を検証した。

 結果は、仮説では社会的証明の影響を受けないタイプであると考えていた商品関与の高い被験者が、最も影響を受けることがわかった。独自性欲求の弱い被験者が影響を受けるたことは予想したとおりであった。また、関与が高く、独自性欲求の弱い被験者は上記の結果のとおり、関与の高低と独自性の強弱をクロスさせた4タイプで最も影響を受けた。

 実験の結果と分析から、社会心理学で言われている社会的証明の原理は、消費者心理でも確かに適用できることが確認された。また商品関与の高い被験者は、商品の本質だけでなく売れ行きや人気など、周辺的な情報についても検討材料として態度変化に用いていることがわかった。逆に、関与の低い被験者は、周辺的な情報から商品についての態度を変化させるといわれていたが、そういった情報にさえも興味を示さないようである。

 以上のような示唆を得られたが、本研究の限界として、被験者数が少なかったこと、対象製品クラスとしてシャンプーしか扱っていないことを考慮しておかなければならない。一般化するためには、今後さらなる研究の蓄積が必要である。